蝉の声 木立の間に リフレイン

蝉の鳴き声が近くの木から聞こえる。ちょうどここに木陰を作っている木だ。
短い夏の終わり、これが最後だと言うように、呼応して、また別の木から蝉が鳴き出す。やがて5.1chのサラウンドのように、辺りは蝉の声に包まれる。
確かかどうかわからないけれど、夏が終わりに近づくほど、蝉の鳴き声を耳にする。それは、生きているうちの全てを、すべて燃え尽かせてしまいたいという、本能のような気がする。
中途半端に終わりそうな僕の人生より、よっぽど立派だ。

いつもの公園の駐車場は、ついこの間まで県外ナンバーで溢れていたが、今はない。公園内のプールに向かう姿を目にした、浮き輪やビーチボールを持った家族連れは、もう普段の暮らしに戻った事だろう。

あれほど威勢を張っていた積乱雲は散り散りになり、何とも惨めな姿を晒している。それに代わり、薄い絹のような雲が、飛散した雲の間に幕を張っている。

ふっと、
(夏も終わりね)と呟いた、あの人の言葉がよみがえる。その言葉に、何だが僕たちまで終わってしまいそうな、そんな不安を感じた事を思い出す。
不思議なものだ。四年間という長い月日がありながら、思い出すのはほんの一瞬の断片なんだから。
思い出は振り返るものではない。引き出しの中にしまった思い出は、いつも中身を確認するものでなく、思い出をしまった引き出しがある事だけを覚えていればいいのだ。

公園の木立の間からは、マレットゴルフのスティックで玉を打つ乾いた響きが聞こえてくる。
(ここだけは、春から変わりがないな)とマレットゴルフのコースに目をやる。木立の中に、マレットゴルフを楽しむ年配の人たちが動いている。
端から見れば、人生の終焉に近づいた年齢の人たちばかりだが、何だが車の中からボーッと眺めている僕より生き生きしている。どっちが人生の終焉なのかわからない。

蝉の声 木立の間に リフレイン

マレットゴルフの玉を打つ響きが聞こえる森の、道を挟んだ向こう側の幼稚園から、園児の元気な声が聞こえてくる。幼稚園にしては広い園庭からだ。園庭と道路と仕切る柵には、運動会の日程を示す看板がくくりつけられていた。今週末が運動会らしい。

蝉の声 木立の間に リフレイン

色々な思いが過ぎ去っていくと、蝉の声がフェードインしてきた。
その鳴き声は、ちょうどここに木陰を作っている木からだ。
蝉の声はどんどん広がっていき、やがて辺りは5.1chのサラウンドのように、蝉の声に包まれていった。




蝉の声 木立の間に リフレイン
(ある公園にて)


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by freeseo1


タグ :公園

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2009年09月10日 Posted byLe musicastre at 16:33 │Comments(0)佐久

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